本書でオススメする読書術は、一般的な読書術が目指すものとは「目標」も「やり方」も大きく異なります。最大の目的は「これまで以上に読書を楽しめること」です。副次的に「これまでより少し賢くなれる」「文章を書くことが少し得意になる」「ノートを上手に整理できるようになる」といった効果は期待できますが、それはあくまでもおまけです。
なので、この読書術では本を沢山読むことや、早く読めるようになることなどは目標にしません。毎年本を何冊読んだ、というように数値化することは、「読書家」であることをまわりにもアピールしやすく、自分の満足感も高まるので、こういった目標はよく使われがちです。とは言え、一冊の本を読んだかどうかなんて、結局自分自身が決めること。同じ「読んだ」でも、かつての私のように読んだ本のことを完全に忘れていたり、どんな本なのか説明できないような「読んだ」冊数が増えるだけの数字には意味を感じられません。なによりも、そういう「冊数」だけが増えても「これまで以上に読書を楽しめること」という目標が達成できるとは思えません。
目指すことは「たくさん読む」ではなく「たくさん語れる」こと。それを目標にして本を読んでいきます。読んだ量を誇るのではなく、読んだ量を誇らないことを誇るべきなのです。
大抵のよい本は「1回で理解するのが難しい」これが当たり前であることを知ることです。
新しい分野のことを学ぼうと思えば、ほとんどのことを知らないのが当然です。そうであれば、ほとんどの内容が1回でわからないことは当たり前。1回でわかるのは、物語を楽しむことが目的の小説1や、ほとんど知っていることしか書かれていない本くらいだと考えましょう。
ここでもまた学生時代の話に戻りますが、当時「教科書」という本は、一冊の本を何回も何回も繰り返し読んで、少しずつ理解しようとしていたはずです。1ページ2ページ読み進めるのに1時間2時間使うことも当たり前に行っていたのではないでしょうか?
読んだ本について語れるようになるために必要なのは、早く読む努力ではなく上手に読む努力です。ただ文字を追いかけて先に進むのではなく、考えるべきは理解力と定着力を最適化することです。結局、早く読める本というのは「早く読めてしまえる」くらいの本なのです。そうした本を何冊も読むよりも、興味深いことが沢山あり、早く読むことなどできない本を時間をかけてじっくりと読む方が、「知ること」を楽しめるはずです。
そして、そのようにして一冊一冊の本をじっくり読んでいけば、一冊の本を早く読む能力は自然に身に付いていきます。知っていることだらけの本であれば早く読めるのです。つまり、知っていることが増えれば増えるほど、早く読める本がどんどん増えていくのです。
アトミック・読書術の基本的なサイクルは「本を読む」「読書メモを残す」「メモを読み返して書き直す」を繰り返すことです。
メモを読み返して書き直すことを繰り返すことで、メモを残した内容は自然に「知っていること」に変化していきます。そして、知っていることが増えていくことで、読書メモを残すことにかかる時間は少しずつ少なくなっていきます。どんなことをメモに残すとよいか、ということについても、メモを読み返すことを繰り返せば、少しずつ自分に合った読書メモの残し方が身に付いていきます。
メモの残し方は、もちろん本書でもいろいろ考えていきますが、最終的に1冊の本からどんなメモを残すのか選ぶのはメモを書く人次第です。自分はどんな読書メモを残すのか。そうやって残した読書メモの違いこそが読書をする人の個性・好みであり、そうやって残したメモを振り返ることにで自分の個性が見えてくるようにもなるのです。
このように、読書メモを残して、メモを読み返すということを繰り返すので、1冊の本を読む以外にも「読書」には余分な時間が必要になります。毎日12時間読書に時間を使う、というほどの気合いは必要ありませんが、無駄にテレビを観たりスマホをぽちぽちしたりするような時間を減らして本を読もう、というくらいの「気合い」があるに越したことはありません。(そういう時間をなくせば、案外無理せず毎日1時間くらい時間が作れます)
こういったことを踏まえて、次からはより具体的な「読む方法」について考えていきたいと思います。
物語を楽しむ小説も、世界観を理解したりするために「何回も読む」人も大勢います。やはりそれも「1回読んだだけではわからない」ものです。