ブックカタリストというPodcastを一緒にやってる倉下さんが、『ロギング仕事術: 課題に気づく、タスクが片づく、成果が上がる』という本を書きました。
いちおう関係性の明示的なものをちゃんとお伝えしておくと、著者から提供いただいた本で、自分で買った本ではありません。もらった本とか紹介しても、本音っぽく思えないよなあ、とか思って、献本していただいても全然その本について書くことがなかったんですが、最近はちょっと考えが変わってきました。
所詮、一人の人間が読める本の量なんて限られていて、一人の人間が知ることが出来る本の量は限られています。そしてそれは、同じようにナレッジスタック読者の方にも当てはまるはずです。それならば、もらった本でも拾った本でも、その本がいい本だったと思ったならば、それは何かの縁だと思って、できる限りちゃんと紹介する。その方が読者の方々の役に立つと思うし、結果的に自分も気分がいい。
そんな風に考えが変わったきっかけは、この本からの影響が大きかったからです。この本からの影響で、Obsidianでのデイリーノートの使い方がけっこう変わりました。そのくらい影響を受けた本であるならば、紹介してもバチは当たらないどころか、きちんと紹介することこそが筋なのではないか、って思ったわけです。
少なくとも今後「デイリーノートってどうやって使ったらいい?」って聞かれたら、まずこの本を読め、というのが現在のごりゅごの答えです。
この本は、著者本人も言っているように「よくあるド直球のビジネス書スタイル」の本です。難しいところは特になく、余白も余裕を取ってあり、最初から最後まですらすらと読み進んでいけます。サクッと読み終えることができます。
そんな本書の基本的な主張は「記録をしながら仕事しよう」というもの。ごりゅごと似たような界隈の人からすると、記録を残しながら生きていくことは常識であり、基本であることのようにも感じます。ただ、よく考えてみると、そのことを真正面からテーマにした本はあまり見かけません。(こういうビジネス書を読まなくなって久しいので、ただの勘違いかもしれない)
そして、ある意味で「常識」とも感じられるようなテーマの本の、なにがよかったのか。
ぶっちゃけ、読み始めた理由は「義理」です。だって、別にこういう本を読まなくても、俺は普段から記録しながら仕事してるもん。普段から人に「日誌を書きながら仕事するの重要だ」って主張してるもん。
そんな考えが変わって、素直に面白いと考えられた理由が、本書の中で出てきた「メリット」と「うれしいこと」を比べて考えよう、というはなし。
私たちが記録をするという行為を考える場合、大抵最初に考えるのは記録を残すことにはどんなメリットがあるのか、ということです。ただ、だいたいどんなものごとでも記録が残っていればなんらかの「メリット」は存在します。原理上、メリットがゼロの記録などは存在せず、記録することのメリットに注目していては記録の本質は見えてこないのです。
本書でも出てきたたとえ話ですが、アンケートに答えたら1円分のポイントがもらえる、なんていうサービスについて考えてみます。1円がもらえることは、確かに間違いなく「メリット」です。じゃあ、アンケートに答えるために時間と労力を使って、こうした個人情報をデータとして提供して1円が得られるということ、それは果たして「うれしい」ことと言えるのかどうか。
もちろんこれは、極端なたとえ話です。
ですが、自分が残す記録は、その記録が「うれしいこと」なのかどうかを基準にして考える。言われてみればあたり前のことなんですが、この観点は新鮮でした。今後も人に話す時は、こうやって説明しよう。そう考えるようになりました。
どんな記録でも残しておけばだいたいメリットはある。だけど、記録のための記録を残しても、その記録から嬉しいものが得られない。5分おきにコンピュータのストレージの残り容量を記録し続けたら、役に立つ可能性はあるかもしれないけど、その記録によって嬉しいことが増える可能性はほぼゼロだといってもよいでしょう。そんなバカな記録を残したりはしない、と思いつつも、人はけっこうこれに近い「記録のための記録」を残してしまいがちなのです。
本書で書かれている記録の基本は「やったこと」と「やろうとしていること」を残すことです。そして、こうした記録を元にして、自分の行動を深めて、広げていくことが大きな目的です。
自分が残した記録を振り返ることによって、どんなことを記録したらいいのかというのが「見てわかる」ようになります。つまり、なにを記録したらいいのかは記録を残してみないとわかるようにならない。よりよい記録の残し方は失敗からしか学べず、失敗したことがわかるようになるためには、なにかを記録してみるしかない。
記録を残して、記録を振り返って、その記録について考えて、少しずつ自分自身に最適な記録の残し方を見つけていく。その過程で、自分自身に関しての発見があり、その発見に伴って、自分の思考や行動が、よいと思われる方向に変化する。これこそがロギング仕事術から得られる「うれしいこと」であり、本質なのだと理解しました。
極論、記録を書いて考えることができれば、その記録は消えてなくなってしまっても問題なんてないわけです。本文中に直接そうしたストレートな表現がされているわけではないんですが「記録を始めたばかりのころの記録なんて全部なくなっても問題ない」と思えることもまた重要なことです。
「記録を始めたばかりのころの記録なんて全部なくなっても問題ない」と思えれば、どんなツールを使おうとか、難しいことを考える前にすぐ始められる。どんなことを書こうとか、難しいことを考えずに書いて考えることができる。
そうやって、まず始めてみることこそが重要なのです。
ここまで書いてきたことは、本書から得られた知見でありつつ、同時にごりゅごの主観的な意見でもあります。
著者の倉下さんとは普段からブックカタリストを通じて長期間にわたって、長時間いろいろなことを話しています。本書を読んで、考えが似ている部分がたくさんあるんだな、ということを改めて感じました。
そういう意味で言うと、ごりゅごのこの本に関する感想は、客観的な評価とはちょっと言いがたいものなのかもしれません。
ただ、本書を読んで、そこから大きく影響を受けたのも、また事実です。
これを読んだことが、自分の記録の残し方を大きく見直すきっかけになり、ここ数日は記録の残し方が大きく変わりました。
まだしばらくは「やり方」は大きく変わるかもしれませんが、ある程度そのあたりが安定化したら、このニュースレターでも改めて整理して、まとめてみたいと思います。
『ロギング仕事術: 課題に気づく、タスクが片づく、成果が上がる』 - ナレッジスタック - Obsidian Publish