前々から何度か言っていたKindle本『アトミック・シンキング』がようやく完成しました。
Amazonでもページができあがり、予約注文も出来るようになっています。
発売日は8月11日(木)です。お盆のお休みに読んでいただけることを目指して、終盤はかなり結構無理してがんばりました。
都合3回「書いて」完成したというイメージで、最初に比べてかなり全体のテイストも変化しました。
Amazonにははじめにを全部載せきれなかったので、このニュースレターの中で『アトミック・シンキング』の「はじめに」を全文掲載しようと思います。本は、ご購入いただく以外にも、Kindle Unlimitedでもご覧いただけます。
また、本に関する感想、質問などをお寄せいただくスレッドも作成いたしました。(Substackにはそういう機能もある)
『アトミック・シンキング』に関する質問スレッド - by goryugo - ナレッジスタック
もし、読んでいただいて気に入っていただけたならば、一言「面白かった」と書き込んでいただけたりするとありがたいです。その一言は、あなたが使った時間の2万倍くらいの幸福をごりゅごにもたらしてくれます。(時間は、人のために使うと時間があるように感じられるのです)
ナレッジスタックを読んでいただいている方であれば、きっとご満足いただける内容であろうという自負はあります。
はじめに
やらないといけないことがいっぱいで忙しい。やるべきことを整理しようにも、そもそも今自分はなにをやらないといけないのかがわからない。
忙しくて余裕がないときほど、自分は今なにが出来て、なにが出来ないのかがわかりません。なにがわかっていて、なにがわからないのかがわからないのでなにもできず、ますます忙しくなってしまうという悪循環に陥りがちです。
こういったときに有効な方法が「書く」ことです。忙しくて余裕がないときほど、書くことが重要です。書くことを通じて、今の自分がわかること、わからないことを整理していきます。書いて考えるという行為は、頭の中だけで「考える」ことと違い、自分が書いたものを「見ながら」考えることが出来るようになります。頭の中だけで考えるということと、考えを書き出して「見ながら」考えることの違いは、おそらくみなさんが想像されるよりもはるかに大きなものです。
わかりやすいのが「将棋」です。将棋というゲームには、目隠し将棋、脳内将棋と呼ばれる、将棋盤と駒を使わずに、自分が動かした駒と場所を声に出して、将棋盤なしで頭の中だけで将棋を指すという遊び方があります。
実際に目隠し将棋をやってみるとよくわかるのですが、ほとんどの人はうまく将棋を指せるかどうか以前に、自分の駒がどこにあるかすらまともにおぼえていられません。1
頭の中だけで「考える」というのは、この目隠し将棋を指している状態と同じようなものです。自分自身は一生懸命なにかを考えているつもりでも、実際は自分の駒がどこにあるのかを思い出すだけで精いっぱいな状態。頭の中だけで考え事をするというのは、そんな状態で「次の一手」を考えているようなものなのです。
だからこそ「書く」ことが必要なのです。将棋の駒を目の前に並べるように、自分が考えていることを目の前に並べる。書いて考えると、書いたものが残ります。すると、残った「考え」を元にして、考えたもの同士を並べたり、組み合わせたりしてさらに発展させることが出来るようになります。書いて考えることで頭を整理すると同時に、書いて考えたものが新しいアイデアを生み出すための基盤にもなるのです。
本書ではまず、書くことの重要性と、具体的に「書く」ためにはどうすればいいかについて、実例を交えながら考えます。普段書くことに慣れていない人が、どのようなことをして書くことに慣れていけばいいのか。そういった、書くことに慣れるための練習方法も一緒に紹介します。
次に、書いて考えたものを「アトミック」にすることで、書いた内容をいつまでも使える自分の「資産」としていく方法について考えていきます。本書のタイトルにも含まれる「アトミック」にすることを通じて、書いたことを整理します。さらに、整理した考えを「書くための素材」「アイデアの素材」として練り上げていくところまで考えていきます。
そして最後に、こうやって整理した「書くための素材」「アイデアの素材」をどう活用していくのかについて考えます。
この段階にまで到達すると、今まで自分が書いて考えてきたものたちが自分の「第二の脳」と呼べる存在になってきます。なにか「書く」ことが必要になったとき。なにか「アイデア」が必要になったとき。こういうときに「第二の脳」が活躍します。
頭の中のことを「書く」ことで「目隠し将棋」から「普通の将棋」にできるというたとえ話を紹介しましたが、このときは「今考えたこと」だけを書いて考えています。
では「今考えたこと」だけでなく「今まで考えてきたこと」も書いてあるノートがあれば、さらに「考える」ことがはかどるのではないでしょうか?
先ほどの「第二の脳」というのは、こういう存在です。自分一人の頭の中だけで、全部のものごとを同時に考えることは難しい。だから書いて考える。書いて考えたものすべてを必要なだけ、必要に応じて取り出せるとしたら、今まで考えてきたことすべてを目隠し将棋ではない状態で考えることが出来るようになる。
第二の脳というのは「覚えておく」ためのものではなく「考えることを拡張する」存在です。コンピュータに例えるならば、覚えておける量を増やしてくれるストレージのようなものではなく、一度に処理できる量(考えることが出来る量)を増やしてくれるメモリのようなものです。
もちろん、自分が書いたことや考えたことを、すべて完璧に、自由自在になんでも取り出せるというのは理想論です。完全無欠の絶対の方法などというものはありません。
ですが、書いたものをそのまま残しておくことに比べ、はるかに上手に考えを整理できる方法が存在します。それが、本書のタイトルにも含まれている「アトミック」という概念です。この概念をノートの整理、思考の整理に応用することで、自分が作ったノートは「第二の脳」に大きく近付きます。
そのためにも、まずは「アトミックとはなんなのか」についての理解が必要です。まずはこのことから考えてみましょう。
アトミック・シンキングの「アトミック」とはどういうものなのか
本書のタイトルにもなっているアトミック・シンキングの「アトミック」は、物理や化学の分野で出てくる原子(atom)が由来の概念です。三省堂国語辞典第八版によると、原子は「その元素の特性を失わないで到達しうる、いちばん小さい粒子」と説明されています。
この「原子」を意味することば「アトム」を形容詞にしたものが「アトミック」です。ジーニアス英和大辞典では「アトミック(atomic)」の訳語として「極小の、微小の」ということばも使われています。
本書では、この「アトミック」ということばを軸にして、アイデアやノート、意見なども「アトミック」にしていくことで思考を整理していきます。文章やアイデアは、一度書いたものを再び「アトミック」に分割して、論理的にこれ以上分割できない一番小さな状態にすることを目指します。こうやってできた一番小さな文章のかたまりのことを「アトミック・ノート」と呼びます。
そのための第一歩は、まずはなんでも書くことです。アトミック・シンキングでは、なにか覚えておきたいことや考えたいことがある場合には、考えたことをノートに書いて、それが目に見えるようにします。そして「書いて考えたノート」を見ながら、書いてある内容をこれ以上分割できない状態である「アトミック・ノート」に分解していきます。
アトミック・ノートは、一つ一つのノートはどれもとても短いものです。文字数でイメージするならば、大抵のノートはどれも四百文字以下。原稿用紙一枚をはみ出るような長さになることはまずありません。「これ以上分けてしまったらその文章がなにを言っているかわからなくなる」という限界ギリギリまでノートを短くすることが目標です。
これだけではイメージが掴みにくいので、まずは「アトミック・ノート」のサンプルを一つお見せします。次のように、一つのノートは「タイトル」と「本文」で構成されています。
タイトル:アトミック・ノートはこれ以上分割できない最小単位のノート
本文:アトミック・ノートとは、そのノートだけで内容が完結し、そのノートだけを見れば意味が伝わるように書かれたノート。「原子」を意味するアトムということばが由来であり、これ以上分割できない最小単位まで細かく分割された状態のノートを「アトミック・ノート」と呼ぶ。
なんだこれ、さっき書いてあったことがそのまま書いてあるだけじゃん、と思っていただけたならば大成功。そう思っていただけたなら、このノートは「理想的なアトミック・ノート」です。
あたりまえだと感じられたということは、言いたいことがシンプルで簡単にまとまっているということ。シンプルで簡単なことだから、誰が読んでもすぐにどういうことなのかわかる。だから、あたりまえのことが書いてあるだけに見える。
そして、私が「アトミック・ノート」の特徴を、短い文章で、必要十分な内容を盛り込んで説明できたということは、自分が「アトミック・ノート」について人に簡単に説明できるくらいきちんと自分の考えがまとまっている、という証拠でもあります。
難しいことを難しく説明するのは誰でもできることですが、ものごとをシンプルに、簡単に説明するのは想像以上に大変です。ついついタイトルとは関係のない余分な内容を書いてしまったり、書かなければならないことを書ききれず、十分に意味が伝わらなかったりすることはいくらでもあります。
ですが、アトミック・ノートが一回でうまく書けないことはまったく気にする必要はありません。書くことの最初の目的は、頭の中のもやもやしたものを文字として書き出して固定化することです。頭の中のことを文字として固定化し読み返すことで、はじめて足りないものや余分なものが見つけられます。
まずは一回ノートを書いてみて、うまく書けないことがわかったらそれで第一目標は達成。あとでまた書いたものを読み返して、足りないところや余分なところを見つけて修正します。こういった修正を繰り返して、いつか「一つのこと」をシンプルに表現できるようになればいいのです。
ごちゃごちゃした自分の頭の中は「書いて」「一つのことに分ける」ことを繰り返して、文字通り目に見えて整理されていきます。というよりも、最初に自分が書いたノートを一つ一つのことに分けるという行為こそが、書くことを通じて考えるという行為そのものだといってよいでしょう。
そして「一つのこと」だけが書かれたノートの中身をシンプルに簡単にまとめることが出来ると、一つのことが書かれたノート同士を組み合わせて複雑なことを考えていくことができるようになります。
アトミック・シンキングの基本の流れ
あらためて、アトミック・シンキングの基本の流れ、全体像をまとめてみましょう。
アトミック・シンキングではすべてが「書く」ことから始まります。思ったこと、考えたこと、学んだこと、覚えておきたいことなどが出てきたら、とにかくそれを書き残します。「考えたこと」を頭の中だけで完結させてはいけません。メモ帳でもスマホでも、使うものはなんでもいいので、どうにかして考えたことを書き残すようにします。
考えを書くことが出来たら、次はアトミック・ノートを作っていきます。メモ帳やスマホに書いたメモはそのままにせず、一つのノートにまとめていきます。
そして最後に、こうやって自分で作ったアトミック・ノート同士を整理して、自分の「第二の脳」にすることを目指していきます。
とは言え、いきなり難しいことを目指すのではなく、まずは目の前の簡単なことを一つ一つできるようにしていくのが重要です。アトミック・シンキングという手法も、一つ一つ「アトミック」なテクニックに分解して、一つずつ「アトミック」に身に付けていくことを心がけましょう。
圧倒的な訓練と経験を積んだプロは、これらを難なくこなすことができるようですが、彼らは将棋指しの上位1%どころか、将棋人口数百万の中の百数十名。倍率で言えば1万倍を超えるような圧倒的な専門家であり「天才」たちです。すくなくとも簡単に真似ができるようなものではありません。 ↩︎