「Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/11/21 第632号」を読み、そこで書かれていた「インボックス」についての話をきっかけにいろいろ考えています。
デイリーインボックスという選択 / Webで稼ぐ / セルフ・スタディーズからはじめる2|倉下忠憲|note
上記記事は、超要約するならば「デイリーインボックスというやつはすごいぞ」という話。しかし、このすごい仕組みを使っても、それでもまだ「アイデア」というものをデジタルノートで管理するのは難しい、というところまでが記事公開段階での結論。(続きが予定されている)
また、この話題についてPodcastでも語られていました。
第百十七回:Tak.さんとタスク管理の基本について(前半) 作成者:うちあわせCast
このPodcastの中で、ごりゅごが実践している「ObsidianとSpaced Repetitionを使ったインボックス管理」の話題についても軽く触れていただいていました。
これまでにも何度か「Spaced Repetition」の話は書いていますが、Spaced Repetitoinの良さを「インボックス問題の解決」という視点や、GTDという仕事術の課題解決という観点でも語れるかもしれない、ということに気がつきました。
💎Spaced Repetitionプラグインで「Ankiっぽい」ノート見直しの仕組みを実現
今回は過去にごりゅごが経験したGTDの失敗を含めた、現在存在するであろうGTDという手法の課題への解決策としての「Spaced Repetition」について考えてみます。
Spaced Repetitionとは?
まずは最初に、Spaced Repetitionについて超簡単に少しだけ触れておきます。
Spaced RepetitionはObsidianにインストールできるプラグインの一つ。これを使うと、特定のタグがついたノートを「分散学習的」に何度も振り返りができるようになります。
ノートを開いて、マークをつけたら次は3日後に振り返る。3日後にノートを見たら、次は10日後。その次は30日、90日、とだんだん振り返る間隔が長くなる。その中で重要マークをつけたものは、次の振り返り間隔を短くする。
この仕組みをうまく使うことで「すべての気になるノートを」「重要度を加味した適切な頻度で」「有限な時間内に」振り返ることができるようになる。
ごりゅごはSpaced Repetitionをそんなツールだと考えています。
インボックスの処理は難しい
これまでは、Spaced Repetitionのことを「Ankiの仕組みを使ったノートの振り返りシステム」という言い方をしていました。
ここでは視点を変えてSpaced Repetitionを「GTDの弱点を補うレビューシステム」として考えてみたいと思います。
GTDにおけるインボックスは、気になることすべてを置いておく場所。そして、そこに置かれたものは定期的に「適切な処理」をして中身を空にする。この「インボックス・ゼロ」の状態が「水のような澄み渡った気分」を得るために重要なことだと言われています。
インボックスの処理の仕方には一定のルールがあります。たとえば2分以内でできることはすぐやるだとか、1アクションで終わらないことは「プロジェクト」にする、なにかの参考にするものは「資料」に保存する、いつかやりたいことは「いつか」リストに移動するなど。
とは言え、この「適切な処理」というのは全然簡単ではありません。と言うか、一番難しいのが「適切な処理」と言っても過言ではなく、ある意味これが完璧にこなせていればGTDで問題はほとんど起こりません。
インボックスで処理できないもの
インボックスの適切な処理が難しいのは、GTDルールで処理ができないor判断が難しいものも「気になること」として思い浮かべてしまう可能性があるからです。
分かりやすい例が「気になること」として「アイデア」が浮かんでしまった場合。アイデアは「プロジェクト」ではないし、なにかの資料でもない。アイデアを実現するには行動が必要ですが、アイデアはすぐになんらかの行動を起こすことができないからアイデアと呼ばれるのであって、すぐになにかできるのであれば「タスク」です。
それならばアイデアを「いつかやりたいこと」だと考えて「思いついたアイデアリスト」にアイデアを保存すればいいのかというと、まったくもってうまくいきません。そういう不適切な処理をしてしまうと、アイデアは数だけが無制限に膨らんで、振り返ることが不可能になってしまいます。
無限に増える「いつかやりたいこと」
GTDは「タスク」にも「資料」にもならない「気になること」をうまく処理できない、というのが自分の体験を通しての意見です。
タスクにも資料にもできないものは結局「いつかやりたいこと」という扱いにされ、なんでもかんでもいつかやりたいということになる。当然そんなことをしていれば、リストはすぐに数百、数千と言うオーダーに膨れ上がり振り返りは不可能になります。
「気になること」を思いついたらまずインボックスに保存し、それが「いつかやりたいこと」ならば「いつかやりたいことリスト」に保存する。
ここまでは非常に理に適っている素晴らしい仕組みだと思いますが、人が思いつく「いつかやりたいこと」のほとんどは「いつまでたってもやらないこと」です。(少なくとも自分はそうだった)
いつまでたってもやらないけど、気になっていることは事実で、いつかやりたいこと思っていることも事実。そうして、いつかやりたいことリストはどこまでも膨らみ続けます。
そして、GTDはこれらのリストを「週次レビュー」ですべて振り返ろうとします。
最初の1ヶ月2ヶ月くらいなら「いつかやりたいこと」の数は多くありません。すべて振り返ることも簡単で、週次レビューは30分で完了するでしょう。ですが、いつかやりたいことはいつまでたっても減らず、増える一方なのです。
リストの項目が増えれば、当然週次レビューに費やす時間も増える一方です。これまで毎週30分で終わっていたレビューの時間はだんだんと増えていき、1時間、2時間と少しずつ必要な時間が増加していきます。30分ならば無理なく毎週実行できても、毎週2時間「振り返り」をするのは結構な負担です。
最終的には、いつかどこかで「真のGTD」を諦める日がやってくるのは必然だとも言えるでしょう。
すべてのノートを定期的に振り返る必要はない
GTDの課題は、大きく二つあると考えています。
一つが、すべての気になることを適切に処理してインボックスゼロを保ち続ける、というのがきわめて困難であること。もう一つは「レビュー」で全てのものごとを定期的に振り返ることを標準にしていること。
そしてこの課題は、どちらもSpaced Repetitionを使えば十分に解決できうるものだと考えます。
「インボックス」も「いつかやりたいこと」もどちらもSpaced Repetitionを使って管理すればいいのです。インボックスの中身は、Spaced Repetitionが教えてくれる「今日が期日」のノート。
これらのノートに適切な処理ができれば#inbox
タグを消して、処理ができなかったノートは「次回また見る」ことにしておしまい。こうやって一通りのノートを振り返り、今日の分が終わったら「インボックス・ゼロ」は達成したことにする。
要するにやっていることはインボックス処理の先送りです。ただし、先送りはするけれども「気になっていること」には目を通すことができて「これはなにか」を考えることはできました。
考えてもどうしたらいいかわからなかったんだから仕方ない。また今度考えればいい。膨大な「未処理リスト」で溢れ返るくらいなら、一時的にでも処理できたことにしておいたほうが精神の安定にも有効です。
こうやって先送りを繰り返していると、やがて気になることの振り返り頻度は数ヶ月単位に伸びていきます。とは言え、それだけ長い間なにも処理できなかった「気になること」はその程度の扱いでいい。そう割り切ってしまうことです。
毎日1個「気になること」が思いつくだけでも、1年続ければ365個も気になることが現れます。新しい「気になること」と古い「気になること」のバランスを取るには、気になることの扱いに格差を設けるしかありません。ただし、生きている限りはいつか必ず再び気になることを目にする日はやってきます。そうやってシステムを信じられることで、心置きなく「目の前の気になること」に集中できるようになるのです。
これは「いつかやりたいこと」の振り返りでも同じ方法が使えます。(本質は全く同じです)
#someday
タグがついた「今日が期日」のノートをSpaced Repetitoinを使って毎日振り返る。そして、振り返るたびに「これはなにか」を考えて、行動できそうなことを書き起こしていく。なにも行動が起こせず気になるだけだった事柄は振り返る間隔が長くなるので、無制限に増えていく気になることも、有限の時間で振り返りが可能です。
この仕組みは、アナログのシステムでも不可能ではないですが現実的ではありません。ある意味で「デジタルツールだからできること」の代表格です。
Spaced Repetitionのおおまかな設定の仕方、運用方法は以下の記事でまとめています。
💎Spaced Repetitionプラグインで「Ankiっぽい」ノート見直しの仕組みを実現
個人的には、Obsidianを使い続ける理由の半分はこのプラグインの存在です。
ここで例としてあげたのはGTD的な「気になること」の管理という観点ですが、もちろんほかのどんなことにも応用可能です。